月刊誌 指導と評価

2004年 11月号
  1. 2004年 11月号 Vol.50-11 No.599  定価:450円
特集
総合的な学習の再検討
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特集

横断的・総合的な学習誕生と現状の改善策

文部科学省初等中等教育局教育課程企画室室長補佐  井上 卓己

★子どもたちを取り巻く環境や生活体験の変化などにより、学校で学ぶ知識等を生活の中で実感をもって理解する機会が減少している現状においては、既存の教科等の枠を超えて、横断的・総合的な学習を実施することができる「総合的な学習の時間」が重要な役割を担っている。

★学学校においては、学習指導要領の一部改正の内容等を踏まえ、校長のリーダーシップの下に全教職員が一致協力して、地域や児童生徒の実態を踏まえた特色ある教育に取り組むとともに、創意工夫を生かした指導等に積極的に取り組み、「総合的な学習の時間」の一層の充実を図ることが期待されている。

英米の「横断的・総合的な学習」に見る課題

追手門学院大学教授  鋒山 泰弘

★教科教育の枠組みをカリキュラムとして確立することによって学力向上を図るという教育政策の具体化が、英国や米国で1990年代から進められてきた。

★しかし、教科中心の枠組みが全国共通カリキュラムとして制定されたとしても、教科の知識が子どもにとってまとまりのある経験として習得されるためには「横断的・総合的な学習」の経験が必要となるというのが小学校現場の教師の実感としてある。

★また、中等学校では青年期の教育課題として「横断的・総合的な学習」を必要とする主題がある。教科の枠組みが重視され始めた1990年代の英国と米国で「横断的・総合的な学習」はどのように実践され、どのような課題があったのかを紹介したい。

社会科と関連を図った環境教育

東京学芸大学名誉教授  佐島 群巳

★昭和43年版「社会科学習指導要領」に「公害」が取り上げられた。高度経済成長の所産である公害を取り上げたことは、産業発展より「人間の生命・健康を守ることが優先されなければならない」という認識を基本に、小・中・高等学校一貫して、社会科改善の方針であった。

★公害教育は、わが国の環境教育の原点でもあった。しかし、原因追及の公害から広く都市生活型公害にも目を向けるとともに、地球的規模の環境に着目した環境教育へと変貌する。

★環境教育が重視されているのは、環境形成の主体として学習者に環境問題への関心と人間の果たした責任を理解させるとともに、環境保全への参加行動、環境問題解決能力形成が求められているからである。

理科との関連を図った総合的な学習   -環境教育

滋賀大学助教授  市川 智史

★今日の環境教育は「持続可能な社会の構築」に向けて行われるべきものである。

★「環境」に関する横断的・総合的な学習を進める上では、「低環境負荷」「共生」「循環」といった視点が重要である。

★「総合的な学習の時間」での環境教育としては、自然体験、飼育栽培、美化清掃、ゴミ・リサイクルが実践される傾向にあるが、単に「体験」に終わるのではなく、「体験学習の循環過程」を取り入れた学習プロセスをつくることが重要である。

★理科との関連でいえば、例えば「浄化作用」「再生可能な資源・エネルギー」「動植物との共存・共生」「地球温暖化などの地球環境問題」などの環境トピックをあげることができる。

教科と関連づけた環境学習の実践

群馬県前橋市立朝倉小学校教諭  深澤 伸仁

★子ども自身が具体的な体験活動を通して身に付けた学び方が教科等の学習の様相を変え、さらに教科等で学んだことが「総合的な学習の時間」における確かな学びを作りかえていくことになる。

★そして、「総合的な学習の時間」での体験は、子どもの生き方(生活)に好ましい影響をもたらすことが期待できる。

★「総合的な学習の時間」を学校の柱とし、その柱を中核に教科や道徳、特別活動などが構成され、ダイナミックな学校生活が送れるように仕組んでいくことが大切だと思われる。「総合的な学習の時間」を充実させることが、各教科等の学習の定着を図ることにつながっていると考える。

教科と関連づけた環境教育の実践

京都市立桂中学校長  近藤 義昭

★「環境教育」を、人を取り巻くさまざまな存在が調和していくための教育としてとらえ、その目的を達成させるためのプロセスを通して、生徒の価値観の変革を促し、行動する力の育成を図ることを目的とした。

★「地球環境問題」や「都市生活型といわれる環境問題」に焦点を当て、「総合的な学習の時間」において、教科と関連づけたアプローチを試みた。

再考「育てたい力は何か」から出発する総合的な学習の時間

京都市総合教育センター主任研究員  中村 隆

★目標や内容を明確にすることが改めて求められているが、これは木に竹をつなぐことではない。育てたい力が育っているかという観点から見直すことは、この時間を「学力の問題」として再考することがある。

★学習活動のプロセスを通して、子どもたち自身が自己の変容を自覚できることが重要である。したがって、自己を振り返る活動を意図的に取り入れ、内面を深く見つめる機会を保障することが重要である。

★この時間における責任とは、単なる「説明責任」ではなく、教育の結果に対する「責任」である。したがって学校経営の視点からの再考も求められている。

「総合的な学習の時間」の中の「小学校英語」

明海大学教授  和田 稔

★「小学校英語」を「教科化すべきかどうか」が、中央教育課程審議会の専門家を集めた委員会で検討されている。一部の私立小学校や文部省の研究開発校は別にして、一般の小学校が英語活動に取り組み始めてわずか数年にして、なぜ教科化が検討されているのであろうか。

★その答は、「総合的な学習の時間」の中の「小学校英語」の理念と、人々が一般的に英語学習を「技能」の習得と考えていることとの差異にある。教科化は「小学校英語」を「技能」の習得の方向に大きく舵をきることになる。このような状況の中で、「総合的な学習の時間」の中の「小学校英語」の理念と実践を見つめることは意義あることである。

連載

小学校算数の基礎・基本の指導と評価(18)   授業で大切にしたいこと(1)-力づくの力(1) 元筑波大学附属小学校教諭
正木 孝昌
読書教育(2)「ブックスタート運動の広がり」 特定非営利活動法人 ブックスタート理事・総合企画
佐藤 いづみ
最新のテスト事情(5)「独自の学習システムを使って基礎基本の定着ヲ見きわめる」 鹿児島市立西田小学校教諭
冨岡 乃夫也
ドリルについて考える(8)無理・無駄のない効果的なドリルを求めて(4)   宿題ドリルの生かし方-最高の卒業プレゼント どんぐり倶楽部 代表
糸山 泰造
豊かな人間を育てる授業シリーズ(2)   話し方初級編(中学生版コミュニケーション・話す編) 教育臨床研究機構理事長
中野 良顯
どうする?小学校英語(11)   説明責任が果たせる英語活動を! 国立教育政策研究所名誉所員
渡邉 寛治
だんわしつ 福山 幸恵
ひとりごと 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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