月刊誌 指導と評価

2006年 1月号
  1. 2006年 1月号 Vol.52-01 No.613  定価:450円
特集
学力向上プラン(2)
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特集

学力の実態と学力向上策

東京学芸大学教授  児島 邦宏

★PISA調査、TIMSS調査、教育課程実施状況調査から、知の活用能力、教科などの基礎・基本・学ぶ意欲や学習習慣をめぐって課題がみられる。

★たしかに、学校の努力により、改善の方向がみられるが、なお課題は大きく、今後とも学力向上をめぐる改善工夫が求められている。

★なかでも、子どもの生活習慣と学力の相関がみられ、体験の喪失によって学習のリアリティが衰退し、暗記物と化し、学習意欲が低下するという状況もある。

★学校教育のこれらに対する改善とともに、子どもの生活そのもののあり方を見直し、生活と学習の統合をどう図るかという大きな課題に直面している。

主体的・協同的・継続的な学びづくり

大阪府寝屋川市立田井小学校長  上野 寛子

★ここ数年にわかに、客観的な数字や他校との比較による評価が注目されだした。こうした調査結果を、全教職員一丸となった学力づくりにつなげたい。

★学力づくりには、教師には豊かな授業実践と児童理解、向上意欲が必要だ。

★児童の心の育成は、豊かな人間関係と、自尊感情(自己肯定感)が大切だ。授業でもこれらに配慮したい。

★授業研究は算数中心に行った。個に応じた指導として、全学年の算数で二人指導体制をとり、少人数指導と習熟度別学習を一斉授業と組み合わせている。

★このほか、-毎授業、はじめの五分間に、自分の学力に合ったドリル、プリント学習などに取り組み、授業に集中できるようにする。-家庭学習の充実。-希望者には、少人数担当教員が昼休みや放課後、補習授業を行う。

★取り組みの結果、市一斉の学力調査(算数)では、高い伸びが見られた。

埼玉県「教育に関する三つの達成目標」のモデル校としての学力向上策の実践

埼玉県ふじみ野市立大井東中学校長  岡田 盛雄

★ここで紹介する実践は、各教科を学ぶ際の土台ともいえる「読む」「書く」「計算」の力を、各学年で確実に身につけさせようとするものである。

★奇をてらった取組ではないが、教員一人一人がその指導力を最大限に発揮し、生徒に確実に基礎・基本を身につけさせる取組である。

★具体的には、-本時の目標の明確化と自己評価の工夫、-少人数指導やT・Tの充実、-繰り返し学習や小テスト・到達度テストの工夫、-掲示教育の充実、-学習会・補充授業、-各教科や総合的な学習の時間を通した取組、-指導計画やシラバスの工夫・改善などである。

★基礎学力の定着という明確な目標をもつことで、教員の使命感を刺激し、生徒の学習意欲を喚起する取組である。

標準学力検査を活用した学力向上策

群馬県高崎市教育研究所次長  吉井 一

★指導の充実のためには到達度を把握する評価が必要だが、評価に関する保護者の要望に応えるためには、全国との比較ができる標準学力検査NRTがとても役に立つ。

★全国・市の結果を各学校で活用できるようCDを作成している。全国・市の結果と自校の結果を比較することで、結果の解釈はより正確になる。

★経年で比較することにより、自校の課題や成果がより明確になる。

★授業づくりに役立つ資料の提供をめざし、学校との協力をさらに進めたい。

やるぞ!のばすぞ!がんばるぞ!-伊勢崎市学力パワーアッププラン

群馬県伊勢崎市教育委員会指導主事  松本 明良

★伊勢崎市パワーアッププランは、本市児童生徒の学力向上をめざして、子ども・学校・家庭が一体となって取り組むものである。子どもは、伊勢崎式学力向上学習プリントを活用して、基礎学力の定着を図る。学校は、管理職による授業参観を日常的に行うことを通して、教員の指導力向上に努める。家庭は、継続的な家庭学習への取組を促すなど、それぞれの立場で確かな学力の向上をめざして取り組むことによって、相乗効果をねらう。

★標準学力検査NRTの結果をもとに、中学校区別協議会を開催。各中学校区の小中学校長が互いの学校の国語と算数・数学の学力検査を踏まえて、互いの学力向上に向けた具体的取組の情報交換を行う。そして、小中学校九年間のスパンで、各中学校区の子どもたちの生活習慣や学習習慣の確立を図る取組を行っている。

学校教育金沢モデルの実施

石川県金沢市教育委員会指導主事  寺井 雅樹

★金沢市では、平成十六年度より児童生徒の着実な学力の向上をめざした-学校二学期制、-小中一貫英語教育、-学習指導基準金沢スタンダードの三つの施策を「学校教育金沢モデル」と名づけ、全市立小中学校で推進中である。

★学校二学期制は、一つの学期が長くなる中で授業や学校行事のあり方などについて創意工夫しながら、一人一人の実態に応じた、ていねいな指導と評価を行い、児童生徒が確かな学力を身につけることをめざしている。

★小中一貫英語教育は、特区認定のもと、小中一貫した英語教育で、児童生徒のコミュニケーション体験を充実し、「英語でコミュニケーションできる児童生徒の育成」をめざしている。

★学習指導基準金沢スタンダードは、学力調査などによって明らかになった児童生徒の学習上の課題に対応するために、すべての市立小中学校が共通に取り組む金沢市独自の学習指導基準であり、児童生徒の「確かな学力」の定着をめざしている。

自ら学ぶ力を育む教育文化の創造

愛知県犬山市教育委員会指導課長  滝 誠

★学校の最も重要な役割は、授業を通して子どもの「学び」を保障することである。「学び」とは、子どもの基礎的な学力の定着を図り、生涯にわたって学びつづける「自ら学ぶ力」を育むことである。

★「自ら学ぶ力」を育むために、子ども主体の授業を可能とする少人数学級・少人数授業などの学習環境の整備を積極的に進めるとともに、指導方法の工夫・改善に努め、「授業づくり」の実践を積み重ねてきた。

★また「自ら学ぶ力」を育むには、学校を教育文化の創造の場にし、教師の手による学びの文化を学校に根づかせることが重要である。そのためには、学校を教師の手で内側から変えていく自己改革が必要である。

フィンランドの学力向上策-非選別的な教育システムによる成功

日本学術振興会特別研究員  渡邊 あや

★フィンランドは、OECDが行ったPISA調査において「世界トップ」とも評される好成績を示した。その要因には、子どもたちの学力における格差の小ささと、得点分布における下位層の相対的な成績の高さがあった。こうした特長をもつにいたった背景には、非選別的な教育制度を構築してきた、フィンランドの教育文化的伝統がある。

★しかしその一方、フィンランドでも、一九九〇年代には、国内的な文脈において学力低下と格差の拡大が指摘され、これをいかに改善・是正するかが問題となっていた。本稿では、フィンランドがいかにこうした問題に取り組んだかについて、当時進められていた教育改革にもふれながら明らかにする。

アメリカの学力向上策-アカウンタビリティを重視して改善努力を引き出す

文部科学省生涯学習政策局調査企画課専門官  岸本 睦久

★アメリカでは、一九七〇代後半から、学力低下に対して「基礎に帰れ」運動が起こり、読み書き計算能力の完全習得をめざした。

★つづいて一九八〇年代末より、他の多くの国と同様、国際競争の拡大や、知識基盤型社会を背景に、アカウンタビリティを重視した、学力向上をめざす教育改革が現在まで進行中である。共通の到達目標や基準を設定、基礎的な教科での学力テストと結果の公表、選択の拡大、成果が上がらない場合の是正措置等が主な内容である。

★州内統一学力テストの第一の目的は、学校評価、学区評価であり、指導目的が第二である。

連載

授業をつくる(6)小学校社会科   歴史学習において、公民的資質の基礎を養う授業をどうつくるか 明治学院大学准教授
長谷川 康男
新しい評価の枠組み(2)   評価疲れとその対策 教育評価総合研究所代表理事
鈴木秀幸
諸外国の初等中等教育改革の動向(9)ロシア   自由・民主主義体制下で多様化、自由化、分権化の大改革 星槎大学副学長
川野辺 敏
標準検査を活用した教育実践(4)学習内容の定着度向上策 静岡県沼津市立今沢中学校長
鈴木 増蔵
どうする?小学校英語(18)   今後、小学校英語教育を実施するうえでの留意点は何か 国立教育政策研究所名誉所員
渡邉 寛治
だんわしつ 二葉看護学院ほか非常勤講師
小田 勝己
ひとりごと 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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