月刊誌 指導と評価

2006年 5月号
  1. 2006年 5月号 Vol.52-05 No.617  定価:450円
特集
キャリア教育
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特集

キャリア教育でめざすこと

千葉商科大学教授  鹿嶋 研之助

★キャリア教育は、今日、わが国の社会が直面している、「学校と社会」「教育と職業」「知識と労働」との乖離という課題の解決を図るための教育ということができる。

★それは具体的には、児童生徒のキャリア発達を促す教育活動にほかならないということができるが、そのような考え方は、児童生徒の人格の完成という教育の目標を達成するためには、知的、身体的、情緒的諸側面とともに、キャリアの発達も不可欠であるというキャリア教育の主張を表している。

★そうであるからこそ、キャリア教育は、進路指導のように、中・高等学校段階から始めればよい教育活動ではなく、小学校段階から児童生徒の発達段階に応じて必要な教育ということになるのである。

キャリア教育の現状と課題

筑波大学教授  渡辺 三枝子

★キャリア教育が社会から好意的に受け入れられ期待されるようになっている現在は、実はキャリア教育の過渡期でもある。そこで、教育関係者は具体化に入る前に、まずはキャリア教育についての教職員の理解度や保護者などの受け止め方、および学校現場の状況を冷静に把握し、土台作りのための課題を明確化することが求められる。

★キャリア教育の原点を示しながら、代表的な取り組みの例である小中高の連携とキャリア・スタート・ウィークを取り上げて、キャリア教育としてのポイントを解説する。

発達心理学の立場からキャリア教育を考える

東北大学教授  菊池 武剋

★発達と教育は表裏の関係にある。発達を無視して教育は成り立たないし、教育無しに人間としての発達は考えられない。キャリア教育がキャリア発達を支え、キャリア発達がキャリア教育を支えている。

★人は生涯の中でのさまざまな役割(ライフ・ロール)をすべて同じように果たすのではなく、その時々の自分にとって重要性や意味に応じて果たしていこうとする。それが自分らしい生き方(ライフスタイル)であり、社会における自己の立場に応じた役割を選択し、それを果たすことを通して「自分と働くこととの関係づけや価値観」(キャリア)が形成される。

★このようにして、自分に期待される複数の役割を統合して自分らしい生き方を展望し、実現していく課程がキャリア発達である。

各学校におけるキャリア教育への取り組みとその評価

国立教育政策研究所生徒指導研究センター統括研究官  宮下 和己

★キャリア教育は、学校の教育活動全体を通して推進されなければならない。そのためには、キャリア教育の意義を十分に認識し、学校経営計画や教育課程に明確に位置づけることが大切である。また、すべての教員が研修などを通して、キャリア教育について理解を深めるとともに、教員一人一人の資質向上が求められる。

★キャリア教育が教育目標を達成し、さらにより効果的な活動の実践に発展させていくためには、マネジメントサイクル(PDCAサイクル)を取り入れる必要がある。

★児童生徒の変化や教員の取り組みの評価には、ポートフォリオが有効な情報として活用できる。

★今後、各学校には、学校教育の質を保証する観点から、「教育成果の適切な評価」「評価をふまえた教育活動の改善」という視点からの評価がさらに重要となっている。

幼少中高連携を通したキャリア教育の実践

千葉県八街市教育委員会指導主事  峯島 正樹

★教育の目的は人格の完成であり、そのための進路指導(キャリア教育)を幼小中高で連携して行う必要がある。

★共通目標・共通指導・継続指導による学校改善・教員の意識改革を図り、教育活動のマンネリ化から脱却する。

★自己肯定感をもたせる工夫をした授業づくりが最も重要である。

小中高校が連携した実践   「島ぐるみのキャリア教育」をめざして

広島県立瀬戸田高等学校教諭  山本 雅司

★広島県尾三地域(瀬戸田・因島)は、平成16-18年度「キャリア教育推進地域指定事業」の推進地域として文部科学省より指定を受け、瀬戸内海の生口・高根島を中心とした本地域の小学校三校、中学校二校および高等学校一校である本校を含めた全小中高六校が実践協力校として委嘱され、これまでの二年間、キャリア教育を推進するための実践・研究を進めてきた。

★研究主題を「児童生徒の発達段階に応じた組織的・系統的なキャリア教育の研究」とし、学校・家庭・地域が一体となって取り組んでいる。いわゆる「島ぐるみのキャリア教育」の現状と具体例、そして、キャリア教育を推進するために不可欠な「小・中・高連携」の必然性について紹介する。

中学校における進路学習の実践

大分市立大東中学校教諭  伊勢 博子

★進路指導では、まず教師がどんな願いを持って取り組むか、共通理解することが大事だ。子どもたちの将来の生活といますべきことをつなげることが、私たちの願いである。

★自己理解のためのセルフチェックリスト、自分史の作成、最も身近な「生徒たちの保護者」から職業感や勤労観を学ぶ校内ハローワークなどに取り組んだ。また、最も力を入れて指導したのはマナー指導である。

中学校における実践-職場体験学習を中心に

東京都渋谷区青少年教育コーディネーター  相川 良子

★渋谷区には、学校内外のさまざなな体験活動を支援する中間支援組織「渋谷区青少年活動支援センター(以下、支援センター)」が設置されており、企業、NPO、大学、行政、地域団体など、それぞれ専門分野の人材がコーディネーターとして活動している。

★支援センターがコーディネーターとしている中学校のキャリア教育実践の紹介を通して、学校とコーディネーターとのかかわりについて紹介する。

キャリア教育で活用できる心理検査

新潟大学教授  松井 賢二

★「PASカード」は、生徒には自己理解を深め、将来の生き方を考えさせる情報を提供する一方で、学級担任には進路指導だけでなく、学校への適応状況など、生徒理解を深める上で必要な情報を提供できる。

★「職業レディネス・テスト」では、職業分野に対する心理状態を図式で生徒に示すので、自分の職業に対するイメージを確認できる。

★「厚生労働省編一般職業適性検査」は、能力面から見た個人理解や適職領域の探索など、望ましい職業選択を行うための情報を提供している。

★「就職適性テストCA-PA」は、職業的基礎能力をはじめ、職業指向性や適応態度、希望職業の就労条件などを総合的に把握するのを意図している。

連載

教育評価の基礎・基本(2)   評価の主体と対策 文教大学学園長・応用教育研究所所長
石田 恒好
新しい評価の枠組み(6)   評定の問題-二本立てをどう統合するか 教育評価総合研究所代表理事
鈴木秀幸
新しい教育評価の動向/主要論文の概説(14)J・J・カミング、G・S・マックスウェル   オーセンティック評価の実施上の課題 教育評価総合研究所代表理事
鈴木秀幸
だんわしつ 浪合こころの相談室
諏訪 耕一
ひとりごと 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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