月刊誌 指導と評価

2010年 7月号
  1. 2010年 7月号 Vol.56-7 No.667  定価:450円
特集
人間関係力を育てる
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特集

人間関係力を育てる

文部科学省視学官  杉田 洋

★いま、人間として幸せに生きていくために不可欠な人間関係力が弱ってきている現状を正面から受けとめ、「学校で人間関係力を育てる時代になった」と覚悟すべきである。
★子どもたちをよき市民、よき職業人に育成していく上で「人間関係力の育成」が欠かせない。また、子どもたちの学力向上の土壌づくりとしても「人間関係力の育成」が必要である。
★特別活動は、「人間関係力の育成」の中心的な役割を果たす。その際、発達の段階に即した組織的で一貫した指導に撤すること、よりよい生活を築く活動を通すこと、学級会の充実などが欠かせない。 
★「背中で教える」という構えを大切にして人間関係力を育成するための指導力を磨く必要がある。

人間関係力の発達心理学

東京成徳大学教授  新井邦二郎

★人間関係力とは、相手も自分も満足を得ることができるような関係をつくる力である。また、それには人間関係づくりの意志・意欲、知識・判断、行動力の三つの要素が含まれる。
★人間の赤ちゃんは人間関係づくりの道具となる生得的な装置をもって生まれてくる。
★人と良い関係をつくりたいという意志・意欲は、乳児期の親子の愛着関係により左右される。
★幼児期の「親子の綱引き」の仕方により、自己中心的な人間関係意欲が形成されたり、その反対に自己喪失的な人間関係意欲が形作られたりする。
★人間関係力についての知識と行動の集まりである「社会的スキル」は、最初、人間関係を円滑にするスキルが身についていき、その後に自分の意思をうまく表明するスキルが身につく。



人間関係力を育てる

公立学校スクールカウンセラー(元富山県南砺市立福光中部小学校校長)  水上 和夫

★小学校で人間関係力を育てる場は学級である。そのために学級を安心安全な場とし、子どもの心の居場所となるようにようする。
★授業でのかかわり合い、学び合いが子どもの人間関係力を高める。とくに分かち合い(シェアリング)の場を工夫することが大切である。
★授業でかかわる楽しさや喜びを味わうようにするには、構成的グループエンカウンターなどのグループアプローチを活用することが有効である。
★対話のある授業が人間関係力を高める。そのために教師がシェアリングや自己開示、介入などのかかわりをつくり出す指導力を高めることが求められている。

「対人関係ゲーム」で学級集団の人間関係力を高める

長野県南牧村立南小牧小学校教頭  瀧澤洋司

★子どもたちは,対人関係が希薄で生活体験も薄いことから,いろいろな面で未発達な部分を残したまま成長している。不登校は,友人関係などの人間関係に起因しているケースが多い。
★コミュニケーションせざるをえない場面を意図的に設定する「対人関係ゲーム」を導入・展開し,日常生活における人との関わりのきっかけ作りをし,人間関係力を育成する。
★学級集団の状態を的確に把握し,その集団の状態に合わせた働きかけをすべきである。「Q-Uアンケート」を実施して,その結果をもとに集団の状態を見極めてから集団にアプローチする。
★子どもたちに実施するだけでなく,親子や保護者会にも働きかけ,活用してトータル的に人間関係力を培っていく。


人間関係力

長野県南牧村立南小牧小学校教頭  瀧澤洋司

本稿では人間関係力を、友だち関係を作る力、友だち関係を維持する力と定義づける。この力を身につける方法として構成的グループエンカウンターという学習方法が大変有効である。
エンカウンターでは自他への気づきとそれに伴う人間的成長を目的とする。その大目的に向けて、エクササイズ(演習)行うが、毎回のエクササイズごとのねらいがある。そのねらいを、人間関係力を身につけるためのスモールステップとして、項目に起こし話を進める。項目は、自己開示力・他者理解力・フィードバック力・自己主張力・役割遂行力・スキンシップ力の6項目である。

学校ぐるみで人間関係を育てる

名城大学講師  杉村秀充

★学校のビジョンを高く掲げ、学校ぐるみで人間関係力を育てる意識の共有化を図る。
★集団を通して互いに尊重し合う人間関係づくりに努めるを基盤に、学級経営の充実を図り児童一人一人の自己肯定感・自己有能感の育成をめざす必要がある。
★学校ぐるみの取り組みにするために、校長自らが直接児童に呼びかけることも必要。児童自身が生き生きと取り組めるような、わくわくするような目標設定をする。
★目標である「稲西カレー」をみんなで年度末に食し、感動や喜び充実感を体得する。
★PTA全員会、おやじの会等で構成的グループエンカウンターワークを行い、人間関係づくりのよさを学び合い、学校ぐるみの実践に繋げるようにする。

学校と地域が連携して児童生徒の社会性を育てる

文部科学省教職大学院企画係長  須原愛記

★児童生徒が生き生きと学校生活を過ごし、暴力行為・いじめ・不登校などの問題行動等を未然に防止するためにも、児童生徒の社会性や人間関係・コミュニケーション力をはぐくむことはきわめて重要である。
★児童生徒は地域の様々な環境に影響を受けて成長・発達していくものであり、そのための取組は学校だけで行うのではなく、地域・関係機関と連携して取り組んでいくことが、今後より一層求められている。学校が地域・関係機関の役割をしっかりと理解するとともに、学校全体で日常から地域・関係機関との情報交換や連携した取組を進め、地域の活動に積極的にかかわっていくことが重要である。

特別のニーズのある子どもにどう人間関係力を育てるか

東京成徳大学大学院特任教授  中野良顯

★人間関係は、個人の生存や、自己確立や、学習や、生活や、労働を成立させるための最も基礎的な条件の一つである。このように重要な人間関係を適切に形成し管理する能力を人間関係力と呼ぶ。
★人間関係力は、OECDの提唱する主要能力(キーコンピテンシ―)とも重複する。中でも感情を識別し制御し推測し共感する能力、一言でいえば感情のリテラシーは人間関係力の中核にある能力である。
★弁別学習の理論と技法を使えば、特別なニーズのある子どもに感情のリテラシーを教えることができる。その具体的手続きを示す。
★感情のリテラシーは、多様なソーシャルスキルを構築する確かな基盤となる。

連載

教えて考えさせる授業の実践(1)中学校数学 元岡山市立香和中学校長
床 勝信
坪田耕三先生の基礎・基本を学ぶ小学校算数の授業づくり 「わかる」と「できる」基礎・基本の考え方(49) 小学校五年、基本図形の面積 青山学院大学教授
坪田 耕三
これからの国語科教育(4)中学校読むこと(説明的な文章) 栃木市立藤岡第一中学校教頭
中島聖巳
これからの理科教育をどうするか(10)中学校二年「電流とその利用」 広尾学園中学校・高等学校副校長 元筑波大学附属中学校副校長
角田陸男
これからの学習評価(4)現行の評価基準の問題点とスタンダード準拠評価-参考資料を例として 教育評価総合研究所代表理事
鈴木秀幸
教育・心理検査入門(4)標準学力検査 (一財)応用教育研究所副所長
宮島 邦夫
小学校英語活動のポイント(16)「外国語活動」におけるDo`s and Don`ts-その4 国立教育政策研究所名誉所員
渡邉 寛治
だんわしつ/生きる力を育む教育方法としてのドラマ教育 東京都市大学教授
小林由利子
教育の窓(11)時代の要求を反映した新しい算数教科書 青山学院大学教授
坪田 耕三
教育の窓(12)新しい教科書で理科はどう変わるか 広尾学園中学校・高等学校副校長 元筑波大学附属中学校副校長
角田陸男
ひとりごと/所見 元公立中学校教諭
吉冨 久人
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