月刊誌 指導と評価

2019年 6月号
  1. 2019年 6月号 Vol.65-6  No.774  定価:450円
特集
カウンセリングを生かした道徳の指導
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特集

カウンセリング心理学と道徳教育の接点

東京学芸大学教授  松尾直博

★カウンセリング心理学は、道徳教育との接点が大きい学問分野である。
★第一の接点は、両方が「生きる」ことを考え・感じるという点にある。よりよく生きることについて、自分、人との関わり、集団や社会、生命や自然という視点などから接近していくという類似点がある。
★第二の接点は、対話から何かを生み出すという点にある。カウンセラーや教師が一方的に答えを与えるのではなく、対話によってクライエントや児童生徒が自分自身で何かを生み出していくことを目指すという類似点がある。
★教師がカウンセリング心理学と道徳教育の両方を知ることで、よりよいカウンセリング、道徳教育の実践につながるであろう。

道徳授業の力量を高める教育相談

神田外語大学特任准教授  松田 憲子

★道徳の教科化に伴い、これまでの主人公の気持ちを考えるだけの授業から、「主体的・対話的で深い学び」の道徳授業への転換が求められる。
★そこで、教育相談の3つの段階①「リレーションをつくる」、②「問題の核心をつかむ」、③「適切な処置をする」、と5つの技法「受容」「支持」「繰り返し」「明確化」「質問」を授業に生かすことを提案したい。
★この3つの段階をもとに1時間の道徳授業を構成し、5つの技法を「発問」に取り入れることは、子どもたちが道徳的問題を主体的に考え、相互の対話のみならず個々の子どもたちの心の中の対話も促し、思考を深めることにつながる。
★子どもの心を見つめるために教育相談の機能を生かすことで、道徳の授業力を高めていきたい。

構成的グループエンカウンターによる道徳授業

明治大学教授  諸富 祥彦

★構成的グループエンカウンターによる道徳授業は、わが国における「体験的な学習を重んじる道徳授業」の方式として最も多く行われてきたものである。
★構成的グループエンカウンターを「道徳授業の方法」として取り入れ実践するためには、①ねらいを明確に意識すること、②ねらい、読み物資料と、エクササイズの「つながり」がよくなるように工夫すること、③資料を読む時間、自分で考える時間、エクササイズの時間、などの「時間配分」をよく工夫すること、などが重要である。

構成的グループエンカウンターによる道徳授業(実践編)

千葉市立貝塚中学校主幹教諭  齊藤 優

★構成的グループエンカウンターは、エクササイズとシェアリングという一連の活動を通して自己発見と自他理解を促進させ、本音で語り合うことで他者との心のふれあいができるグループ体験である。構成的グループエンカウンターを活用した道徳授業では、子どもたちがエクササイズに積極的に取り組みながら、道徳的価値を知的なレベルで理解するのではなく、感情を伴った気づきにより体験的に理解することができる。構成的グループエンカウンターによる道徳授業の最大のメリットは、子どもたちの思考や感情を刺激し、大きな行動変容をもたらすことができる点にある。「家族愛」をねらいとした道徳授業に内観エクササイズを取り入れたエンカウンターの実践モデルを紹介する。

モラルスキルトレーニングによる道徳授業

上越教育大学教授  林 泰成

★従来、道徳の時間にスキルトレーニングを実施すると批判されるのが常であった。しかし、新しい学習指導要領では、「道徳的行為に関する体験的な学習」という言葉が導入され、スキルトレーニングの導入が容易になった。私たちの提案するモラルスキルトレーニングは、道徳教育であることとスキルトレーニングであることを要件とし、子どもたちの状態に合わせてその展開過程を工夫するが、一応の基本的なステップはある。ここでは、そのステップを紹介するが、現場での工夫でこうした提案にさらに磨きをかけていただきたいと願っている。さらに、道徳授業を超えて展開する可能性を示す。

モラルスキルトレーニングによる道徳授業(実践編)

福島県二本松市立渋川小学校長  渡邉真魚

★「頭でわかっていながら行動できない」子どもたちに、道徳科はどうアプローチすればよいだろうか。経験や体験がないために実行できなかったり、わかったつもりで振る舞えなかったりと、児童生徒の発達段階により、その差は大きく違ってくる。
★生活経験が少ない小学校一年生の子どもたちに、ロールプレイング(以下、RPと表記)を通して、道徳的スキルの獲得を目指すモラルスキルトレーニングによる授業を四時間実施した。本稿はその実践の報告である。

「社会性と感情の発達」を基本にした道徳授業-ソーシャルエモーショナルラーニング(SEL)の考え方

法政大学教授  渡辺 弥生

★感情は論理的に考える行為のじゃまものとみなされ、どちらかといえば、感情を抑えて知識を習得することが求められがちだ。何かを学ぶには、楽しいことを封印しないといけないという暗黙のルールがあるかのようだ。特に、道徳はストイックに生きることをめざし、自身を戒めつづける時間のような空気が漂いがちだ。
★しかし、本当のところはどうだろうか。「考え議論する」「主体的・対話的で深い学び」という理想を現実のものにするとき、そこには、考えたい、議論したい、自分らしくありたい、もっと学びたい、というワクワク感が大切だ。ここでは、仲間との喜びを共有し、自分らしさを感じることのできる道徳について考える。

SELによる道徳授業-感情に焦点化したソーシャルスキルトレーニング-

東京情報大学准教授  原田恵理子

★対人関係のトラブルや学校不適応の状況になった生徒の多くは、自尊心が低められ、ネガティブな感情によって自分も他人も否定する感情をもちやすい。自己形成期にある子どもは、ネガティブな事象が起きてもそれらを過度に否定的にとらえるのではなく、ありのままに感情を受け入れて、自己や他者の感情を理解してコントロールすることや、ソーシャルスキルを身につけることが非常に重要になってくる。そこで本稿では、道徳の授業でSELをするため、①実施する意義の共有、②アセスメントに応じたプログラム、③校内組織と教員への支援体制についてふれる。また、高校での実践事例を紹介し、実施における工夫や配慮についても考える。

連載

巻頭言/カウンセリングと道徳授業の思い出 鳴門教育大学学長
山下一夫
「教師力」アップセミナー子どもとともに成長する教師をめざして(3)カリキュラムづくり-学習指導の本丸- 創価大学教職大学院准教授
大関 健道
QUを活用したPDCAサイクルで教育実践の向上をめざして(3)生徒理解を深め、個に応じた支援を徹底した実践に学ぶ(1)-取組の特徴- 早稲田大学教授
河村 茂雄
続説明文・意見文を書くことの指導(4)説明文を書く 4年生・5年生の実践事例をもとに 筑波大学附属小学校教諭
青木 伸生
木下是雄と「言語技術の会」ルネッサンス(2)会の沿革と活動 文部科学省教科書調査官(体育)
渡辺哲司
特別寄稿/パフォーマンス評価の実践研究(2)パフォーマンス課題を設計する 埼玉県立総合教育センター教育課程担当
篠田俊文
わたしたちの学校づくり(22)授業規律を確立して学習意欲を高め、意欲的に学校生活に取り組む生徒の育成-「授業の約束10」を中心とした学校づくり- 埼玉県川越市立砂中学校長
田中 孝
教育統計・測定入門(77)当てはめたモデルの適合性の比較(1) 法政大学教授
服部 環
教育相談はこう学ぶ!-全国各地の特色ある教育相談研修(3)だれもが行きたくなる学校づくり研修 総社市教育委員会学校教育課
村山 俊
こうすればうまくいく!スペシフィックSGE(4)なかまと学び、なかまと広げる-「集団づくり学習会SMILE」の実践 鹿児島県公立小学校教諭
薗田満江
通常学級の実践から学ぶ特別支援のヒント52(3)不安軽減と動機づけにつながる教師のコミュニケーションの工夫 埼玉県立大学准教授
森 正樹
授業を見る・語る・研究する(2)あたたかい教室・親しみのある教室 埼玉県立大学准教授
森 正樹
公認心理師の資格をもつガイダンスカウンセラーの実践(3)教育行政・学校管理職の立場でガイダンスカウンセリングに関する主導的役割を担って 千葉商科大学准教授
川崎知己
講座キャリア心理学(3)キャリア発達を支援する 労働政策研究・研修機構副統括研究員
下村英雄
本の紹介(2)『レポートの組み立て方』① 指導と評価編集部
「指導と評価」編集部
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