月刊誌 指導と評価

2020年 4月号
  1. 2020年 4月号 Vol.66-4  No.784  定価:450円
特集
❶新教育課程における評価❷心に残った授業
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特集

❶新教育課程における評価/学習指導要領と指導要録

文教大学学園長・応用教育研究所所長  石田 恒好

★学習指導要領は国の“指導の基準”といわれ、指導すべき目標と内容を示す。これに対して、指導要録は国の“評価の基準”といわれ、「指導の過程及び結果を要約して記録する」あり方を示し、指導の資料や外部への証明の原簿として用いられる。
★新学習指導要領の目玉は、学力の三要素、カリキュラム・マネジメント、主体的・対話的で深い学びである。観点は教科等の特性を考慮した4観点から新3観点となり、これは各教科等だけでなく、小学校の外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動まで同じである。

❶新教育課程における評価/目標準拠評価

教育評価総合研究所代表理事  鈴木秀幸

★目標準拠評価には、知識・技能の評価に適合するドメイン準拠評価(学習内容=領域を明確に決めて正誤で判定する、従来のペーパーテスト)と、思考・判断・表現の評価に適合するスタンダード準拠評価とがある。これまでの目標準拠評価の考え方は思考・判断・表現も前者の方式で評価しようとするものだったが、これでは労力が膨大になってしまう。
労力や妥当性の観点からパフォーマンス評価の導入が必要である。この評価基準は数段階である。評価基準は課題別のルーブリックと、一般的なスタンダードの2つが提案されている。妥当性・労力などの観点から国で作成するのが最善である。

❶新教育課程における評価/評価事例集の役割

教育評価総合研究所代表理事  鈴木秀幸

★思考・判断・表現の評価は、正誤の二分法的評価ではできないため、数段階の評価基準を作成して子どもの姿・解答を判定していく。しかし、評価基準の記述文は一般的な表現であり具体性に欠くため、判定に迷うこともある。そこで事前に、各段階を代表する典型的な子どもの姿・解答を集めておき、適宜これを参照することで、信頼性を高めることができる。

❶新教育課程における評価/採点者間信頼性

法政大学教授  服部 環

★信頼性は同一児童生徒に同一検査を実施したとき同一得点が得られる程度をいう。また採点者間信頼性は、採点者間で得点が一致する程度である。後者を表す係数には、一致度を表す係数と、採点傾向の一貫性を表す係数がある。
★採点者間信頼性を高める方法としてグループ・モデレーションがある。

❶新教育課程における評価/「主体的に学習に取り組む態度」のアセスメントと支援

筑波大学名誉教授  櫻井 茂男

★観点別評価の新観点として「主体的に学習に取り組む態度」が登場した。従来の「関心・意欲・態度」のような複合的な観点ではないため、教師にとっては“学習への取り組み方”として子どもの学習活動を観察すればほぼ評価できる。具体的な態度として「自ら学習を調整する態度」と「粘り強く学習に取り組む態度」が挙げられた。本稿ではそれらを含め9つの態度(測定項目)を提案し、それらを育む指導法についても紹介した。 

❶新教育課程における評価/アセスメント

東北大学教授  宮本友弘

★「アセスメント」は、教育・心理の分野の基本用語であり、主に教育評価、生徒指導、発達支援の領域で使用される。
★しかし、その定義には論者によって相違がある。教育評価の領域では測定論に限定する立場と、評価論までも含む立場がある。また、生徒指導、発達支援の領域においても、独自の用法が見られる。
★一語一訳が難しい現状では、特定の定義に固執せず、どのような意味で使用されているかを見極めることが大切である。

❷心に残った授業/「リズム」の窓から広がる世界

東京藝術大学教授  山下薫子

★小学校で体験した「リトミック」の授業は、体の動きを通して、音楽の動きを感得させようとするものであった。当時はただ楽しい時間と感じていたこの授業が、実は「リズム」を核とした人間教育の一方法だったのである。
★リトミックを通して、ライフワークとなる「内的聴感」と「メタファー」という研究テーマを得た。実感を伴った理解や感性の育成が重視されるいま、リトミックの理念や方法は再評価されてしかるべきである。

❷心に残った授業/英語教員としての資質向上をめざして

東京電機大学教授  相澤一美

★教員としての資質は、生徒第一の観点に立ち、授業をわかりやすく展開することである。そのためには、高い英語力と指導に関する専門性が必要である。授業で心がけていることは、①理解を深めさせるわかりやすい例文を提示して、既習の事柄と関連づけさせること、②コミュニケーション重視の立場から、英語を英語で理解できるように工夫すること、③試験を行ったときは、できるだけ早く答案を返却してフィードバックすること、である。

❷心に残った授業/世界を切り取る力と、好奇心

(株)日立製作所研究開発グループ研究員  刑部好弘

★知識だけなら容易に得られるようになってきたこの現代、大切なことは自ら主体的に学び、そして新たな知を発見することだ。では、こうした発見的学習、あるいは研究活動のモチベーションとなる「好奇心」はいかにして育つのか。研究者をめざすことになった高校時代、そして学習者としての基礎を身につけた小学校時代の体験を振り返りながら、好奇心の源泉がどこにあるのかを考える。

❷心に残った授業/出会いに感謝して

北海道留萌高等学校教諭  大和田真利

★「自分と向き合う」ことができず、劣等感と不安をかかえていた学生時代の私は、ある授業をきっかけに、本の魅力にのめり込み「私ができること」を探し求め、教師への道を歩むことになった。
★人との出会いに支えられ、私自身がどう変化し、成長していったのかを振り返りまとめた。

❷心に残った授業/学生も自分もワクワクする授業をめざして

白河厚生総合病院付属高等看護学院  富岡 崇

★私は看護学校で十年ほど教員をしている。私が看護学校を卒業して看護師として働きはじめたころには、教員になるとは夢にも思っていなかった。そんな私が教員になるまでと、いまの授業スタイルを確立するまでの経過を振り返る。そこで気づいたのは、新人教員のときといまとで授業スタイルの根本は変わっていないこと。そして、その根本は義務教育のときに出会った先生の影響であったということだ。

❷心に残った授業/「創造的な教育実践」への挑戦

さいたま市立植竹小学校教諭  一色 翼

★私が小学生のころに受けた授業の中でも、特に心に残っている授業は3つある。
★それらの授業を通して、「アイネス」、「自己覚知」、「エビデンス・ベースト」、「ワンネス」、「ウイネス」、「アセスメント」、「メディエーション」等の重要性を、いま思えば学んだように思う。その体験が、「創造的な教育実践」の実現を目指す現在の教師としてのあり方にも大きな影響を与えているように思う。

今月のイチオシ!!ここまでは押さえたい学習評価(1)思考・判断・表現の目標準拠評価のあり方(昨年度の要約)

教育評価総合研究所代表理事  鈴木秀幸

 昨年度「これだけは押さえたい学習評価」と題した連載で、今日、学習評価(目標準拠評価)を論じるのに最低限必要なことを紹介しました。本連載ではこの理解を前提に、やや発展的な内容を紹介したいと思います。ただし初めての読者もおられると思いますので、今回は昨年度の連載を要約します。(図書文化HP7、9~11、1~3月号「今月のイチオシ」も参照ください)
■1:学習評価の最も重要な基礎知識-評価には種類と一般的に満たすべき要件がある
(1)評価の分類としては、1)目的・機能から、形成的評価(指導や学習に生かす)と総括的評価(長期間の成績を要約して表す)があります。形成的評価では当然妥当性が、総括的評価では妥当性とともに信頼性が強く求められます。総括的評価のうち入試などはとくにハイステイクスといい、さらに高い信頼性が必要です。
ここで、妥当性とは評価したいものを的確に評価しているか、信頼性とは何回評価しても結果が同じか(とくに評価者によるぶれのなさを評価者間信頼性といいます)を意味します。
2)結果の解釈で分類すると、相対評価と目標準拠評価があります。目標準拠評価は形成的評価・総括的評価どちらにも向きますが、相対評価は形成的評価には向きません。
(2)学習評価に必要な要件は少なくとも①~④があり、これらのバランスが大事です。①妥当性 ②信頼性 ③実行可能性 ④教師の一定の評価力。
■2:目標準拠評価(主に思考・判断・表現)の特徴-教育的だが、信頼性・実行可能性に課題- 
 今日の学習評価のあり方は2001年に、小中学校とも、観点別に加え「評定」も目標準拠評価(いわゆる絶対評価)で行うことになったことが直接的な源といえます。次は目標準拠評価と(それ以前の)相対評価との比較です。
・相対評価は、結果を順位や偏差値で表せる(=信頼性が高い)ため、集団内の位置がわかりやすい。外部への証明、入試での利用に便利。
・目標準拠評価は、結果を目標と照らし合わせる(=妥当性が高い)ので、努力の成果や、学力の水準・問題点などがわかりやすい。
 このように目標準拠評価は教育的なのですが、信頼性・実行可能性・教師の評価力の担保に大きな課題があります。世界の潮流は目標準拠評価と「思考・判断・表現」の重視ですから、当時の決定自体は妥当だったと思われますが、上記の課題を克服する施策が必要でした。
 実際には「知識・技能」と「思考・判断・表現」とで目標準拠評価のあり方が相当異なります。いま大きな課題となっているのは後者ですので、以下こちらを中心に論じます。
(1)思考・判断・表現の目標準拠評価は膨大な作業を要する、教師に一定の評価力も必要
 しかし、高い信頼性が求められる指導要録(とくに中高)において、信頼性に課題のある目標準拠評価を採用したことは、課題を克服する施策の必要性と、信頼性を高めるための教師の作業の増大を意味しました。しかし実際には前者が弱く、教師の過重負担となりました。
 ゆえに「働き方改革」が求められる今度こそ、国による大胆な支援策が緊要です。目標準拠評価で教師が担う採点・判定作業には大変な労力を要しますので、それ以外の作業、すなわち妥当性の高い適正な評価基準(とくに小学校英語)の作成や、ハイステイクスな場合の評価者間信頼性のチェック、判定の迷いを減らすための評価事例集(exemplar)の作成などは、教師以外(第一義には国、次に都道府県)が担うべきです。換言すれば、
(2)思考・判断・表現の目標準拠評価のあり方は、つねに妥当性・信頼性・実行可能性・教師の評価力の4つから考える必要がある。
■3:目標準拠評価における、測りたい学力と評価方法の組合せ
 目標準拠評価には、領域の知識・技能を評価するのに適したドメイン準拠評価と、思考・判断・表現を評価するのに適したスタンダード準拠評価があります。
 ドメイン準拠評価は、従来のようにある学習内容(領域=ドメイン)を対象にペーパーテストで知識を問う方式で、小問は○×で採点でき(二分法的評価)、○の数または点数の合計をカッティングポイントにより数段階に分けます。新「知識・技能」の評価では、妥当性・信頼性の高い問題にすること、○×の二分法的評価だけでなく「理解」を測る記述式問題も一定程度入れること、カッティングポイントを適切に設定すること、などに留意します。
 スタンダード準拠評価は、思考・判断・表現のように学習内容(領域)を明確にできない学力を評価する方法です(4で詳述)。 
■4:思考・判断・表現の目標準拠評価
 一方、「思考・判断・表現」は「知識・技能」と異なり、○×の二分法的評価は適しません。「思考・判断・表現」の表れは多様ですから、○×ではなく数段階で判定するのが適切です。いまの観点別のようにABC3段階で表すのなら、3つの評価基準が必要で、事前に作成しておき、最も近い段階に判定します。これまでの評価基準表もこの考えに従って作られました。
 ところが、昨年から文部科学省は「目標=評価基準」と言い出しています。これは目標準拠評価の充実どころか後退であり、いまも高くない信頼性をさらに危うくします。
 ペーパーテストでは記述式問題を採用すべきで、ほかにパフォーマンス評価を行うべきです。
 記述式問題やパフォーマンス評価では評価者間信頼性が低くなるので、当該の評価基準によく当てはまる代表的な生徒の作品を集めて(評価事例集)判定に迷ったとき参照するようにすれば、評価者間信頼性を高めることができます。
 さらに、評価基準の記述は、あまりに一般的すぎると判定の際に迷うので、できるだけ判定に役立つ程度に具体的であるのが望ましいのです。昨年から文部科学省が言うように、学習指導要領の目標をそのまま評価基準に利用しようとすれば、この問題につき当たります。
 確認すると、思考・判断・表現を目標準拠評価で判定するには、「何を、どの程度」を記述した評価基準を段階の数だけ事前に決めるとともに、具体的な典型的な実際の解答・姿で評価者間のズレを小さくします。
 ポイントは、
1.「目標=評価基準」ではない
2.ABC判定にはABC3つの評価基準が必要
3.評価基準は判定に役立つ程度に具体的でなければならない 
4.パフォーマンス評価を取り入れるべきである
■5:思考・判断・表現の評価の信頼性を高める方法(ハイステイクスな場合)
 学力テスト・内申両方の評価者間信頼性を高めるため、評価者間で採点が合っているか確認し調整することです(モデレーション)。
■6:評価のあり方が学習者の学習観に影響を与える 
 評価のあり方は学習者の学習観に強い影響を与えます。ハイステイクスな場合はなおさらです。学習者は評価されない事柄は重要とは見なさず、テストの成績がいちばん良くなるような学習方法を選びます。思考・判断・表現を教育目標の重点とする以上、それを適切に評価できる評価方法を選ばなければなりません。

連載

巻頭言/「早春賦」の思い出 教育評価総合研究所代表理事
鈴木秀幸
木下是雄と「言語技術の会」ルネッサンス(11)国語教育界との複雑な関係 文部科学省教科書調査官(体育)
渡辺哲司
「主体的・対話的で深い学び」を創る(12)中学校理科1年第1分野「音の性質」 筑波大学附属中学校副校長
新井 直志
中学校社会科で主体的・対話的で深い学びを創る(1)「問題解決的な学習」を通して、他者と学び合う力を鍛え上げる社会科学習の研究-倫理的な「価値判断」と、論理的な「言語活動」を基底とした「感じ、考え、志を立てる」授業の実践- 筑波大学附属中学校副校長
新井 直志
教育統計・測定入門(84)混合効果モデルにおける説明変数の中心化 法政大学教授
服部 環
教育相談はこう学ぶ!-全国各地の特色ある教育相談研修-(13)常に新たな視点を求め、学校現場で生きる教育相談研修 千葉県子どもと親のサポートセンター
川野佳代子
授業をみる・語る・研究する(12)授業タクティクスの分析 東京学芸大学名誉教授
河野義章
予防としてのコミュニケーション教育(1)学校危機における予防教育の重要性 東京情報大学准教授
原田恵理子
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