月刊誌 指導と評価

2007年 12月号
  1. 2007年 12月号 Vol.53-12 No.636  定価:450円
特集
特別支援教育元年
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特集

特別支援教育のいま、これから

文部科学省特別支援教育調査官  樋口 一宗

★平成十九年、学校教育法が改正され、小・中学校等においても特別支援教育を実施することが義務づけられた。

★これは、在籍がどこであるかにかかわらず、教育的ニーズに応じて、特別の指導を受けることができる制度に変わったことを意味する。

★平成十五年度以降、全都道府県を対象にした委託事業「特別支援教育体制推進事業」により、体制整備は進んできているが、先進的な取り組みが見られる一方、地域による格差も大きい。

★熱心に取り組む学校や地域の成果を参考にし、すべての学校、地域で特別支援教育が推進されていくことを願っている。

特別支援教育の推進

教育臨床研究機構理事長  中野 良顯

★特別支援教育では、従来の特殊教育の対象(約十八万人)だけでなく、通常学校に在籍する約六八万人の軽度障害児(LD、ADHD,高機能自閉症)にまで、その対象を拡大した。

★軽度障害児は原則として通常学級に在籍させ、教員の配慮・ティームティーチング・個別指導・習熟度別指導などによって、担任が指導する。

★特別支援教育の成功は、すべての教室において、担任が良質のインストラクションを提供できるかどうかにかかっている。

★インストラクションの設計においては、課題の六次元を入念に考慮し、チャレンジ・レベルを最適化することによって、すべての子どもの学力向上と人間形成を実現しなければならない。

効果的な個別の指導計画の作成

明治学院大学教授  海津 亜希子

★個別の指導計画とは、特別な教育的ニーズのある子どもの状態像を多角的に把握し、子どものニーズを考慮しながら、めざす目標を掲げ、それを達成するためのプランを指す。

★まずは、ていねいにアセスメント(実態把握)し、子どもが何に対して、どのような支援を必要としているのかを把握する。次に子どものめざす目標を決めていく。ここでは、できるだけ具体的な言葉で立てていくことが大切だ。具体的な目標は、具体的な手だてをも生み出し、結果的に目標を達成することにもなる。そして行ってきた実践に対しては、子ども・指導者双方の観点から評価を行う。それが次の有益なアセスメントへと再びつながっていく。

特別支援教育の現状と課題   事例(1)LD 

川崎市総合教育センター巡回指導員  吉村 亜紀

★「もっと努力しなさい」「怠けてないで」「繰り返し練習すればできるよ」・・・・・。学習につまずきがある子を目の前に、このような言葉で叱咤激励してきた過去の歴史は、LDの子どもたちには通用しない。LDの子どもたちは、本人が自覚して繰り返し努力しても、学習のつまずきという問題が解消されず、認知能力の偏りがその習得を妨害していることがある。

★「おやっ?」という気づきを大事に、早期に支援の手がかりを見つけたい。

★アセスメントを踏まえた指導内容・方略は、学習遅進児へのアプローチとは異なるが、一人一人に合ったアプローチを早期に開発することが求められる。

特別支援教育の現状と課題   事例(2)ADHDの生徒への支援

宮城県仙台市立広瀬中学校教諭  斎藤 道美

★中学校段階では、二次障害を併発し、指導に困難のある場合も少なくない。職員集団が、複数の目とそれぞれの専門性を生かして生徒を見て、背景を把握し、情報を共有し、対応を相談し、チームで支援することが大切である。

★また、中学校の役割は、「中学校生活を充実させること」と同時に「将来の進路を考えた指導をすること」である。広い視野での情報収集も必要となる。目標を明確にし、具体的な対応策を講じ、校内外の人的資源をフル活用して、可能な支援を行う。

★いまできる実践を行いながら、学校としてのよりよい支援のあり方を模索している毎日である。

特別支援教育の現状と課題   事例(3)高機能自閉症

教育臨床研究機構常務理事  宮崎 麻衣子

★高機能自閉症の小学一年男児の公立小学校通常学級における学習の様子と支援の実際を、介助員の立場から詳述する。

★通常学級における有効な支援の手続きは、1.子どもの行動を両面からよく見る、2.子どもの長所に注目してほめる、3.支援手続きを実行して改善する、4.小目標を設定して成功の機会を増やす、5.有効な補助を必要最小限に、6.補助具を発明して活用する、7.子どもが落ち着ける場所を用意する、8.担任、保護者、介助員の連携を大切に、9.友達どうしの助け合いを促す、である。

特別支援教育の現状と課題   事例(4)通級

東京都三鷹市教育委員会学務課教育支援担当課長  田中 容子

★通級のアセスメントは行動観察、生育歴等の聞き取り、諸検査等により行われる。個別指導計画は、通級担任、在籍する通常の学級担任、保護者が話し合って作成し、実際の指導においても連携が重要である。

★通級指導では、児童生徒が在籍する通常の学級における適応の力を向上させることが目的となる。担任は通級指導のほかに、特別支援教育コーディネーターと連携しながら、校内の通常学級児童生徒に対する支援も行う。学校以外の福祉部局各機関、医療機関等との連携のほか、相談の段階から保護者との連携も不可欠である。保護者と通常の学級担任がスムースに連携できるよう、配慮しながら連携支援を行っていくことが重要である。

特別支援教育の現状と課題   事例(5)特別支援学校

筑波大学特別支援教育研究センター教諭  瀬戸口 裕二

★特別支援教育体制では、学校種別を超えた連携に基づく支援の展開を求めている。これまで、それぞれの教育目標や学校機能を分担して担ってきた教育全体の共通課題として、どのような連携をしていくかは、大きな期待をもつものである。と同時に、簡単には進めていくことのできないものでもある。

★特別支援学校のセンター的機能と、各学校の特別支援教育コーディネーターが、この連携をつなぐ鍵となるものである。校内委員会の活性化や相談支援の充実のために、地域支援事業を展開している事例を通して、今後の連携と苦戦する子ども、保護や、学級担任を支えていく展望を見通したい。

連載

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